[ 2017/04/14 追記 ]
♨️ Kelmanix(@Kelmanix)さんに英訳記事を書いていただきました!thx :)
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日本が編み出した「帯」という独自の文化。レコードやCD、書籍やゲームソフトのパッケージに付属した帯には扇情的な謳い文句が踊り、消費者の購買意欲を駆り立てる。帯はまさしく企業の広報戦略の粋を集めた英知の結晶とも言えよう。また、帯は熱狂的な蒐集家たちの垂涎の的として、帯だけで数十万円もの大金が動く市場すら存在する。それは日本だけに限った話ではなく、世界でも「Obi」に心血を注ぐ熱心なコレクターも多い。
さて、レコードやCDなどの領域で跋扈していた帯が、海外を中心に盛り上がるVaporwaveという文化圏にも派生しつつあるのをご存知だろうか。
前知識として、Vaporwaveカセットカルチャーについて記述しておこうと思う。2012年ごろからインターネット上で勃興したVaporwaveというミームは、主に80~90年代のスムースジャズや、忘れ去られて然るべき商業的なポップソングを引きずり出し、カットアップやチョップドスクリュードなどの技巧を加えて仕上げた音楽ジャンルとして広く知られている。懐古趣味的なサンプリングソースを多用しているせいか定かではないが、リリースされるアルバムは、CDではなくカセットテープというフォーマットを伴っている場合が多い。Vaporwaveカセットのみに特化した「Vaporwave Cassette Club」なるコミュニティが開設され、2017年4月現在では5800人以上ものファンが集うほど、カセットテープはVaporwaveシーンにおいて絶大な人気を誇っている。
Vaporwaveというムーブメントが盛り上がるにつれて、カセットテープでのリリース量も年を追うごとに増加していく。Discogsによると、Vaporwaveの最盛期は2016年で、およそ2491作品ものVaporwaveアルバムが世に放たれ、そのうちの681作品がカセットテープというフォーマットを伴っていたようだ。Discogsの性質上、リリース量には多少の誤差はあるものの、確かに去年は多くの新興Vaporwaveレーベルが乱立し、月に数十本もの新作が絶えることなくリリースされていた。凄まじい盛り上がりっぷりである。
そんなVaporwaveカセットカルチャーのなかで最も著名なのは、2012年に〈BEER ON THE RUG〉から100部限定でリリースされたMacintosh Plusの「Floral Shoppe」であろう。Discogs市場では、なんと850ドル(日本円でおよそ9万5000円)で落札されている。11万円近い価格で出品されていたこともあり、今後も暴騰していくことが予想される。
やっと本題に移ろうと思う。そんなVaporwaveカセットの文化圏において、近年脚光を浴びているのが「Obi Strip Cassette(Obi付きカセットテープ)」である。LPでもCDでもなく、わざわざカセットテープに帯を付ける案件が増えてきたのだ。この現象は、オランダ在住の作家、猫 シ corp. に起因する。彼がPOCARI ステューシーとのスプリットアルバム「School Days」のハンドメイドカセットをリリースした際に、Jane's Addictionの「Live And Rare」のCD帯を改窮した帯を付属させた。もともとのアートワークが、帯付きCDのジャケットを模したデザインだったため、それをフィジカルで体現しようという精神が垣間見える。
猫 シ corp. の事例に触発されてか定かではないが、Gateway ゲートウェイという作家も2ndアルバム「永遠の道」のカセットにおいて帯を起用。通常版に加え、限定1部の激レア帯付きカセットも登場し、Vaporwaveカセットコミュニティを大いに沸かせた。
やがて、インディペンデントレーベルがカセット帯を起用する気運が高まる。
ワシントン州のレーベル〈VICE '98〉は蜃気楼MIRAGEのアルバム「忘れテープ」において、書籍に巻かれている腰巻きタイプの帯を用いた。晴れ渡った青空を象った帯に書かれているのは、価格でも品番でもなく、購入者への感謝の言葉。それ以降〈VICE '98〉のカセットテープにはこのタイプの帯が付属するのが常となる。
カセット帯に革命が起きたのは先月のこと。〈BLUDHONEY RECORDS〉が w u s o 命の「Hold It Together」のカセットにおいて帯を起用。パッケージは2種類ほど用意され、そのどちらにも異なったデザインの帯が付属したのだ。サイバーパンク調のレーベルカラーに見合ったクールなカセット帯は、かつての帯に比べても格段に優れており、帯を目当てに2つのバージョンを買い求める熱狂的な人間までも現れた。(僕を含みます)
もともと〈BLUDHONEY RECORDS〉はフィジカルに強くこだわったレーベルとして知られており、蝋でシール付けしたレタータイプの梱包や、レーベル名にちなんだハチミツ味の飴をおまけに付けるなど随所に工夫を凝らしている。それはサブレーベル〈CHAMBER 38〉の感染性物質を封じ込めるための輸送用パウチ袋に密封されて届くカセットテープにおいても言えることで、カセットテープカルチャーという広い括りのなかでも、とくにVaporwaveカセット界隈は創意工夫が溢れているようにも思える。
〈BLUDHONEY RECORDS〉は今月リリース予定のkubrixXxの「Listless City」においても帯を採用する方針のようだ。これをきっかけにカセット帯は(一部のマニアの間で)大きく盛り上がっていくことだろう。……ぶっちゃけ、帯が付いているとケースを開ける際にわざわざ外す手間が生じる。しかもめちゃくちゃ外しにくいため面倒である。しかし、それを差し引いても、帯にはマニアを惹き付ける魅力があるのだ。